地震と地震保険、企業向け地震保険と建築基準法の関係 について
前回の東京オリンピックが開催されたのは1964年ですが、
その1964年(昭和39年)6月16日に発生したのが新潟地震です。(マグニチュード7.5)
この地震で多くの建物や橋脚などが沈下・傾斜し、下水道マンホールや貯水槽などが浮上しました。
その中でも、鉄筋コンクリートの頑丈な建物が倒壊するという当時の「想定外」な出来事が発生し、
人々に衝撃を与えました。また、この時に初めて「液状化」という言葉が使われ、これを契機に液状化対策が施工されるようになりました。
この地震がきっかけとなり当時の大蔵大臣 田中角栄氏(のちの総理大臣)のリーダーシップにより、
1923年の関東大震災以後でも実現できなかった「地震保険」の創設に至りました。
そして、1966年(昭和41年)5月18日に「地震保険に関する法律」の公布・施行を受けて、
国が再保険を引き受ける形で国と民間の損害保険会社が共同で運営する制度として誕生しました。
一方、建築基準法は1971年(昭和46年)に改正され、それまでは底盤のない基礎でもよかったものが、
コンクリート造、または鉄筋コンクリート造の布基礎とすることが規定されました。
1970年までの基礎:
⇒ 1971年以降の基礎
企業向け地震保険で、「東京・千葉・神奈川以外での引受対象を1971年以降」としている背景にはこういった事情があります。
そして1978年(昭和53年)6月12日に宮城県沖地震が発生しました(マグニチュード7.4)。
この地震では、内部に鉄筋がなかった、または本数が不足しているブロック塀や控壁のないブロック塀が多数倒壊、
ブロック塀などの下敷きによる死者は18名にもなりました。(全体の死者は28人)
家屋倒壊被害も甚大であったことから、本地震から3年後の1981年に建築基準法の改正及びその施行が行われることになりました。
この時の建築基準法改正の要旨は、建築物の耐震基準の強化で
「震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7程度の大規模地震でも倒壊は免れる」強さとすることを義務づけたものです。
(これがいわゆる「新耐震」と言われるものです。)
建物と同時にブロック塀の基準も改正され、高さ制限や鉄筋を配筋すること、一定間隔で控壁を設けることなどが規定されました。
(よって、企業向け地震補償特約等の料率は「1971年から1980年」までと、「1981年以降」とで異なります。)
ところが、建築基準法には遡及規程がありません。
そのため、改正前から存在するものはそのままでよいということになっているのです。
(建物の場合は、建築基準法では「既存不適格建築物」と呼びます。)
3年前の大阪北部地震では、小学校のコンクリートブロック塀が倒れ、女児が犠牲となった事故が発生しました。
宮城県沖地震が発生したときは大きな社会問題になったにもかかわらず、どんどん風化され、
このような痛ましい事故が再度発生したことは残念なことです。
この間に、地震保険は、1980年に半損の導入(それまでは全損のみ補償)、1991年には一部損が導入されました。
そして1995年(平成7年)1月17日に阪神淡路大震災が発生しました。(マグニチュード7.3)
この地震では、高速道路やビルなどが倒壊、冬場だったこともあり、多くの木造住宅が通電火災等により焼失しました。
2000年には、再度建築基準法が改正されました。
この改正では阪神・淡路大震災を受けて、さらなる耐震性の向上が図られました。
この大震災で全壊や半壊した建物は、たしかに旧耐震で建てられた建物が多かったのですが、
1981年以降に建てられた建物でも、基礎の形状が地盤の強さとミスマッチを起こしていたり、
壁の配置が適切でなかったり、せっかく入れた筋交い(すじかい)や柱が抜けたりして被害にあった例が見られたからです。
また、この年の建築基準法の改正では木造住宅に関するものも含まれていることから、
木造建物の企業向け地震保険の引受では建築年を2000年以降としています。
2001年(平成13年)には地震保険に耐震性能の高い住宅に対する割引制度として、「建築年割引」と「耐震等級割引」が導入されました。
2011年(平成23年)3月11日には東日本大震災(マグニチュード9.0)が発生しましたが、この時は建築基準法は改正されませんでした。
地震保険は2014年(平成26年)7月に政府と民間保険会社の負担割合や総支払限度額などが変更されました。
さらに、「免震建築物割引」および「耐震等級割引(耐震等級3)」の割引率が30%から50%に、
「耐震等級割引(耐震等級2)」が20%から30%に拡大されました。
2016年(平成28年)4月14日と4月16日には熊本地震が発生しました。
1回目の地震(余震)がマグニチュード6.5、その2日後の地震(本震)が7.0。
1回目の地震よりさらに大きな2回目がくるという「想定外」の地震でした。
そして建築基準法も「短期間に、しかも2回目のほうが大きい地震」というのは想定していません。
地震保険はそれまでの「全損」(100%)、「半損」(50%)、「一部損」(5%)の区分でしたが、
「半損」と「一部損」の差が大きいとして、2017年には半損を大半損(60%)・小半損(30%)に分割されました。
長々となりましたが、以上が、地震と地震保険、企業向け地震保険、建築基準法の関係となります。
大きい地震が発生すると「想定外」な事象が発生、それを受けて建築基準法が改正され、地震保険が改正される・・・
こうした大きな流れの中で、それぞれ改善を加えていった歴史がお分かりいただけたかと思います。
首都直下地震ではどのような「想定外」が発生するのか分かりませんが、少なくとも発生することそのものは「想定外」ではありません。
来たるべきリスクに対し、しっかりとした備えをしておきたいですね。
地震補償について、ご不明な点、ご要望等ございましたら、お気軽にお声掛けください。