「なぜ今、D&O保険が必要なのか」
役員個人の責任をカバーする『D&O保険』(Directors and Officers Liability Insurance = 会社役員賠償責任保険)ですが、
2021年3月1日以降の会社法改正が施行され、D&O保険に関する法律も改正されました。この改正により、
D&O保険の内容を決定するには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議を経る必要が定められたことから、
世間では、役員内でのD&O保険の検討や見直しが必然的に行われています。
このような情勢の中、今回は中小企業向けD&O保険のポイントを、
中小企業ならではの役員個人への賠償リスクを挙げてご説明いたします。
なお、今回は特定の損害保険会社のD&O保険関連商品に限った話ではなく、
「なぜD&O保険が必要なのか」をテーマにしています。
・役員個人の責任とは?
役員は会社と第三者に対して、大きな責任を負っています。
具体的には、以下の責任を果たせない場合、役員は会社や第三者から損害賠償請求される可能性があります。
《 会社に対する責任 》
「善管注意義務・忠実義務」 → 取締役として相当な注意を尽くして業務を遂行しなければならない。
「競業避止義務」 → 取締役会の承認なしに、会社の業種と同じ仕事を自分で経営してはならない。
「利益相反取引回避義務」 → 取締役会の承認なしに、会社に物を売ったり、会社に自分の借金の保証人になってもらったりしてはならない。
「監視・監督義務」 → 他の取締役の行為がきちんと法令・定款に則って仕事をしているか、監視しなければならない。
《 第三者(取引先等)に対する責任 》
「民法上の不法行為責任」 → 第三者は、取締役の故意または過失と損害との因果関係を厳密に証明しなければ損害賠償責任を問えない。
「会社法上の特別責任」 → 第三者は、取締役に故意または重大な過失があれば、それと取締役の義務違反との因果関係を証明しさえすれば損害賠償責任を問える。
(故意・重過失と、損害との因果関係を厳密に証明しなくても良い)
◇中小企業の役員個人のリスク◇
・株主代表訴訟
株主代表訴訟と聞くと、上場企業の問題とのイメージがあります。
確かに、役員と株主の構成が身近な親族のみの場合は、株主代表訴訟リスクは少ないと言われています。
しかし、広範囲の親族(姻族等)が株主等に含まれている場合は、一定の株主代表訴訟リスクが考えられ、
実際に、株主代表訴訟の80%以上が中小企業を舞台に起きています。
特に多発しているのは同族による経営権争い、すなわち、経営者の私的流用です。
中小企業の場合、特に創業者から次世代に会社の株式について相続がなされると、同族で株式を持ち合うこととなり、
(代表取締役は会社を支配できていますが、)同族で会社の経営に関与できていない方には不満が募ります。
代表取締役が同族会社であることを良いことに、会社の財産と個人の財産を混同したり、
会社の財産で投機を行って損を出したりすれば、経営に関与していない同族株主は、絶好の機会と考えて株主代表訴訟を提起します。
また、同族以外に取引先等の第三者が株主の場合も株主代表訴訟のリスクは高まります。
第三者の株主は、リターンを求めることを主な目的として会社に出資していますので、
当然ですが同族株主以上に出資金以上のリターンを求めることになります。
もし、会社がその出資金をうまく活用できず、結果的に会社が損を出すようなことがあれば、
第三者の株主は自身の出資金(保有株式の価値)が極端にマイナスにならないよう、
会社の損を役員に補填させるために株主代表訴訟を提起することがあります。
株主代表訴訟に備えるためにも、経営者が変わるタイミングや、
株主構成に血縁関係のない親族や第三者が新たに含まれる等のタイミングにD&O保険の必要性が上がります。
・第三者訴訟
会社の業務に基づいて損害を受けた第三者は、通常は会社に対して損害賠償請求するのが自然ですが、
最近は、代表者個人(役員)に対しても損害賠償請求をすることが多発しています。
中小企業ならではですが、会社よりも代表者個人の方がお金持ちであるケースが多いからです。
訴訟を提起する第三者側としては、可能な限りの損害賠償金を得るため、
(当然ですが)お金を持っている代表者個人へ損害賠償請求することは自然な流れです。
アメリカではこのような考えをDeep Pocket Theory(ディープ ポケット セオリー)と呼びます。
「Deep Pocket(深いポケット)=お金持ち」を意味し、請求するならばお金持ちに対して請求すべきという理論です。
また、(代表者個人の資産を脅かす)役員個人への第三者訴訟を提起することで、
被告である代表者個人は、損害賠償請金が必要以上に膨れ上がることを避けるため、
原告である第三者に有利な和解を持ち込むことも期待できます。
会社の資産や純利益をもとに、代表者個人の資力が比較的高いような中小企業では、
ご自身の資産を守るための保険として、D&O保険を準備しているケースが多いようです。
◇会社役員の遺族が抱えるリスク◇
会社役員に起因した損害賠償請求を遺族が相続してしまうリスクです。
前述の損害賠償責任に伴う会社役員の損害賠償債務は、
その役員にとってのマイナス財産(=連帯保障や借金等)となるため相続の対象となります。
つまり、会社の役員として活動していた個人が死亡した際に、
その相続人にあたる遺族が損害賠償請求を受けてしまうというケースが想定されます。
相続制度上、被相続人や相続人が存在を知らない財産も相続の対象となることから、
その役員自身が、損害賠償責任を負っていることに気付いていない場合でも、
その損害賠償債務は相続人に引き継がれることになります。
相続人は、相続が発生したことを知った時から3か月以内に、
家庭裁判所に対し「相続放棄」の手続きを行い、(損害賠償請求も含めた全ての財産の相続を放棄すれば)
損害賠償債務を免れることも可能です。
しかし、相続を放棄するか否かを決めるに際しては、被相続人の財産を調査することになり、
(その調査には相当程度の時間を要することもあり)
相続放棄の手続をすべき3か月以内に調査が完了しないことも考えられます。
(期間を延長する制度も一応あり)
そのような背景から、目に見えるプラス財産(=現金、預金、不動産等)があれば、
相続を放棄するといった選択を取る相続人は少ないと言われています。
結果として、相続手続きの際に認識することができなかった、
被相続人である会社役員に起因した損害賠償請求を相続人が受けてしまう可能性も十分に考えられるため、
基本的には相続人を被保険者に含めているD&O保険で備えておくこととなります。
以上、D&O保険は、決して大企業の話ではなく、むしろ中小企業の経営者、役員の方々が
その必要性について一度はきちんと検討しておくことが重要であるとご理解頂けたのではないでしょうか。
なお、以前にご紹介しました、法人会の会員企業向け経営者保険(傷害保険)の新特約「マネジメントガード」は、
「特定の役員1名を被保険者とした役員に対する法律上の損害賠償責任を補償する保険」で、
取り敢えず最低限の保障を割安な保険料(年間3万円)で備えておきたい役員向けの商品となっておりますので、
併せてご検討頂けましたら幸いです。
日本初! 「マネジメントガード」のご案内 | 株式会社 Heart Island (heart-island.com)
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